「安全、グループ安全、制御システムセキュリティ、エネルギー管理、トータル危機管理」
2011/9    IAF 幹事 村上正志氏

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1.はじめに
  今年(2011年)、我々の周りに大変化が起きていると認識される方々は多いと思う。
     起きていることから何を学んで、どのように生き抜いていくかが人間にも企業にも、今問われているのではないだろうか。

1) 3・11に学ぶこと
  私は、宇宙の話をすることも好きなので、いきなり、地球の外からの話になるのですが、核融合を続けている太陽は、宇宙という大自然が作り出したもの。直接その光を人間が浴びると危険なので、地球の大気圏が和らげて地上に届くようにしてくれている。人間の力をはるかに超えている自然界(宇宙)の神ともいうものがこれを扱っていると言って良いと思う。
  その自然界の理の一つを人間は発見したことで、これを自分達で操ってみようと核爆弾が作られ、実験し、1945年8月6日と9日に広島・長崎に落とされた。落とした方の理由は、戦争を終わらせるのに、日本本土決戦が熾烈を極まる事態になり、更に、多くの自国民の命が失われるという状況を回避する為と言われているが、その論議は別にしまして。この核を平和利用しようとして原子力発電所を作り、人間は、これを利用して、エネルギーが豊かな文明の中で生活することを夢見せられて、それを受け入れてきたことで、原発を多くつくってきた訳である。そして、その恩恵を受ける濃さは違っていても、今の経済発展を作り上げた上に、豊かな生活が存在している訳である。
  しかし、40年前に建設し、二年後に廃炉にする予定の原子力発電所の手当てをしないことを決めた後のタイミングで、3・11の大地震と大津波という人間の制御域を超えた自然現象によって、放射能を放出させる大事故を起こしてしまった訳である。神は、私達人類に、神が与えた自然エネルギーを越えた技を認めなかったとも受け取れるし、自然エネルギーがあるのに、それへの感謝の心が薄くなって、それ以上を求めた人類に、覚醒を与えたのかも知れないと考える人もいるだろう。

  この太陽系は、銀河の中を廻りながら、形あるものは滅するという何者をも免れない運命の中で生かされている。これは地球にいる私達も免れられない。その中で、地球の地殻変動の動きに比べ、人類の力は何と小さなものであるのかを再認識することで、生きているのではなく、生かされているという大感謝の心を私達は忘れてはならないという宗教的な思いを深める時なのかも知れない。
    日本国民の多くは、原子力発電に依存しない日本へと変わりたいと思っている。しかし、原子力発電のビジネスに依存している企業で働く人達は、企業利益を優先して、都合の悪い情報を隠すとか、民意をコントロールするという感覚を持っているのではないかと国民は反発している

2) 絆
  誰かが、自分のことを大切に思ってくれる。だから、その命は大切であると思う。でも、その大切な誰かが予期せぬことで亡くなったら。
    3・11の大地震と大津波で多くの命が亡くなった。娘を亡くした家族が、長男に娘(妹)のことを話題にすると、「思い出すから言わないで」と言った長男に、「残った家族が時々思い出してあげるとあの世にいる○○ちゃんは歓んでくれるよ。」と話してあげると、泣きながら、「うん。解った。」と言ってくれたという話を聞いた。
    目に見えないが、思い出して家族で名前を呼んであげるとなぜか心が落ち着いてくる。亡くなってもつながっているんだという心になるまで、時間はかかるけど。

3) 豊かさの価値観
    「豊かである」ということは、何であろうか? 家庭を持ち、子をつくり、子を育てる。子々孫々につながっていく。それを豊かであると考えると、数十万人単位で餓死していくソマリアの実状と比べ、はるかに豊かである。
    誰でも教育が受けられることは、豊かである。成人すると選挙権があることは、国民主権であることだが、公平で透明な選挙であることは、豊かである。仕事を自由に選べることは、豊かである。好きな人と結婚できることは豊かである。行きたいところへ行けることは豊かである。着たい服を着られることは豊かである。食べたい料理を食べられることは豊かである。乗りたい車に乗れることは豊かである。住みたい家に住めることは豊かである。エネルギーがあることは豊かである。しかし、子が不治の病になると大変である。癌にかかると大変である。仕事が無いと大変である。食べるものが無いと大変である。それでも、生活の保障があることは豊かである。

4) 経済の価値観の変化
    経済関係に話を移そう。スタンダード&プアーズ社のアメリカ国債の格付け引き下げやEU経済の危機により、円高が進んで、株価が下がって、工場が日本から海外へ移動することに拍車がかかっている。
    しかし、中国の高速鉄道が西に延びていることで物価高騰は進み、中国の人件費も高くなっている。中国進出の日本企業は、人件費の低い地域を捜して、東南アジアやインドへ工場をシフトしている。そんな中、某機械メーカーが部品を生産するためにタイと日本国内(地方)の両方で見積りをとったところ、日本の地方の方が安かったと聞いた。日本の地方の物価は永い時間低いままだったのですね。 東南アジアの人件費も上がり続けている。
    また、企業存続価値を左右する高価値な技術を使って生産する製品は、情報漏えい防止と熟練技術の伝承を理由に、日本で生産する方針を立てている企業も少なくない。だから、地域の人件費の上昇レートを見ながら、中長期経営計画を立てて進めることになろう。

5) エネルギー管理
    原子力発電所の稼動停止で供給できるエネルギーの限界が下がり、エネルギー・ピークカットと平準化の確保義務は、日本中に広がっている。しかも、自然エネルギー利用に対しての支援策が過去にはあったが、原子力発電推進に取って代わられて、そして再び自然エネルギーへの利用依存度を上げるべく、再生可能エネルギー政策として取り組みが再開されている。

6) サイバー攻撃の危機
    インターネットの世界は、戦争状態である。ノーベル平和賞で中国の人権回復活動家が受賞することで、スウェーデンとノルウェーの政府関係サーバなどがサイバー攻撃を受けた。アメリカ・テキサス州の原子力発電所がサイバー攻撃を受け、その逆探知で攻撃元が判り、そこへの反撃を行ったことで、その国の政府は「我が国もサイバー攻撃を受けている被害者だ。」という。日本政府関係のサーバにもサイバー攻撃がされているという。
    このサイバー攻撃が制御システムを対象に起きたのが、Stuxnetである。

7) 安全、グループ安全、セキュリティ、危機管理
    そんな中、3・11で被災した工場を復旧させて、操業再開する場合、問題となってくるのが安全性の妥当性確認である。これは、被災した工場に限ったことではなく、新規工場建設においても同じである。それは、機械安全、機能安全、セイフティ・アセッサ、グループ安全、セキュリティ、エネルギー対策と、安全の範囲が大きくなった為であり、海外進出においても世界規格レベルで対応しなければならない課題は無視できない。
    また、今年起きた中国の高速鉄道事故は交通システムの安全性検証と車両生産の品質規準確保ができていなかったことを露呈しており、安全を確保するための製品開発設計とは何かを考え直す良い機会でもあると思われる。
    そこで安全、グループ安全、セキュリティ、エネルギー管理、トータル危機管理の課題について、以下述べていく。